Q1 :ご講演の中で送出し機関に問題があることを知りました。 外国人技能実習生を送出し国の中間の団体を通さずに受け入れることはできないのでしょうか。 そうすれば、外国人技能実習生が借金などの不利益を被ることはないと思います。
A1 : 技能実習制度での受入れ方は、二通りあります。多くは監理団体を通じた受入れである団体監理型、 もう一つは「日本の企業等が海外の現地法人、合弁企業や取引先企業の職員を受け入れて技能実習を実施」する企業単独型です。 後者の企業単独型であれば、送出し機関を通さずに技能実習生を受け入れることができます。また、企業単独型の方が問題を指摘されることが少ないです。 しかし、2020年末のデータでは、企業単独型の技能実習生は1.7%に過ぎません。(政府が作成した下図をご参照ください。)なお、講演で触れたかと思いますが、 韓国の雇用許可制度では民間の仲介業者を入れずに政府間で募集・あっせんを行なっています。 しかしそれでも、送出し国にもよりますが、多額の費用負担が発生している実態もあるようです。 国境をまたぐ国際的な労働力移動には、一国の対応だけではクリアできない問題が存在しますので、解決の困難さは否めません。
Q2 :酪農分野でも技能実習生の受入が増えていますが、雇用者が対応すべき点で法令順守は当然として、 生活面や文化の違いへの対応、コミュニケーションの取り方で何かご助言があれば教えてください。
A2 : 受入れ側と技能実習生との相互理解の大前提として、まずはスムーズなコミュニケーションがとれることが大切です。 そのためには、技能実習生の日本語能力の向上が欠かせません。 もし、それができないと、監理団体の通訳などに過度に依存することになりかねず、行き違いが生じやすくなります。 仕事や生活に必要な最低限の日本語だけになると、気軽な会話を通じた相互理解も難しくなります。ですので、地域に応じたさまざまな方法で、 日本語を習得できる時間と機会を確保するようにしていただければと思います。 また、仕事と寮との行き来に限られがちな技能実習生の生活では、地域社会との交流も少なくなり孤立しがちです。 いろいろな機会をとらえて、地域の方々と出会えるよう、導いていただければと思います。 そうしたことを通じて、相互に疑問を率直にぶつけられるようになれば、相互の違いに対する理解も深まると思いますし、何か問題があった時にもそれが表面化しやすくなり、 大ごとに発展する前に対処できるようになるかと思います。 何より、単なる働き手としてみるのでなく、そこに生活する一員としてヒトとして技能実習生に接していくことが肝要です。
Q3 :技能実習生が借金を背負っているという実態とそのことが、 人権侵害に当たるということを初めて知りました。 解決のために雇用側の立場として、すべての借金を負担するという方法も考えられますが、いかがでしょうか。 それが解決策であるとすればどうして解決策として進まないのでしょうか。
A3 : 帝人フロンティアでは、2020年4月からグループ企業で受け入れる際に受入れ企業が手数料を負担する取組みを開始しています。 数年かけてグループ各社での技能実習生をすべて同じ監理団体を通じての採用としました。 ただ、語学等の研修費用や渡航費用は本人負担という考えのようですので、借金はゼロではないかも知れません。 こうした取組みが可能となるには、歩調を合わせられる一定の範囲に限られますし、また適切な監理団体、適切な送出し機関の選定が必要となるので、 なかなか容易なことではないと思われます。今のところ、他社での同様の取組みは知りません。
Q4 :「労働者から手数料又は経費を徴収してはならない」とするILO条約181号(民間職業仲介事業所) を批准してる日本が、借金を背負った技能実習生を受け入れるのは、条約違反にはならないのでしょうか。
A4 : この点に関して、ILO 条約を司る厚生労働省は、以下のように回答しています。 「ILO 条約181 号に関して日本も批准国だが、批准国である日本国内の民間の仲介業者が直接もしくは間接的に労働者から手数料などを徴収してはいけないと 定めたものと認識している。 そうではない外国の送出し機関等がその国の求職者から手数料を徴収するというところまでは禁止するものではないと理解している。 二国間取決め(MOC)に関しては、相手国が条約を批准していない場合には、相手国はこの条項を遵守する義務を負っているとは言えないため、 MOCの中で規定することは、相手国の国内法令の整備等を要するものであり困難であると考えている。」 私としては、これでは相手国の取扱いを通じて実質的にILO181号条約に違反する事態を容認しているものと言わざるを得ず、 二国間取決めにおいて募集・あっせんにかかる費用のすべてを雇用主負担とすべきものと考えています。